札幌スピリチュアリスト・ブログ

スピリチュアリストとして日々感じたことや、考えたこと、書籍の紹介などを徒然なるままに記します。

「コロナの暗号」と村上和雄氏の最後のメッセージ

 

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サムシング・グレートと遺伝子の暗号

 9月に入って長期出張の機会があり生前、一度だけ面識のあった本年4月に逝去された筑波大学名誉教授村上和雄氏の著書「コロナの暗号」~人間はどこまで生存可能か~を拝読しました。村上氏には、筑波大学教授を務めておられた当時に講演を依頼したことがありその講演の際に受けた感銘と、その後出版された「生命の暗号」~あなたの遺伝子が目覚めるとき~など、著書によっても大きな影響を受けた方です。村上氏は高血圧の黒幕である「レニン」の遺伝子解読に成功し、世界的な評価を受けた高名な生物学者であり、1996年には日本学士院賞も受賞されています。

 今回の著書は2021年7月5日に発刊されていることから、遺作であったと思われます。著者は、この著書の中で「謙虚でつつしみ深い態度があれば、科学と技術は人間の心の成長に見合った形で適正に進歩し、持続可能な共存社会をつくるために役立つはずです。・・・つつしむ力こそが新型コロナが暗示するメッセージであり、異常気象や大災害、新たな感染症など、地球の危機状況から私たちが読み取るべき重要な教訓なのです」と述べられ、著者が「サムシング・グレート」という宇宙を創造された存在、遺伝子に暗号を書き込んだ存在に思いを寄せるとともに、遺伝子は助け合って利他的に活動しているという「利他的遺伝子」という考えを提唱されています。

利他的遺伝子をオンにする生き方

 遺伝子工学の世界ではリチャード・ドーキンス氏がその著書「利己的な遺伝子」で強調している「遺伝子の利己的な性質であり、それこそが人間の本質であり、生物の本質である」という認識が世界の潮流となっています。このことに、村上氏は異論を唱え、もし利己的な行動ばかりしていたら、生物は生存できないと述べています。リチャード・ドーキンスは「生物は遺伝子によって利用される"乗り物"に過ぎない」という比喩的な表現で遺伝子中心主義を提唱し、熱烈な無神論者、科学的合理主義の推進者であり、ダーウィンの思想的後継者の一人と目されている科学者です。今日、このドーキンス氏のような考えを持った科学者や知識人、言論人が数多く存在しています。しかし、このような考え方は現象面だけをみて、物事の本質をより深く理解していないように思います。ドーキンス氏は著書の最終章で「純粋で、私欲のない、本当の利他主義の能力が、人間のもう一つの独自的な性質だという可能性もある」と述べ、結局のところ、利己的な遺伝子というものを証明しきれなかったと村上氏は指摘します。

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 村上氏は、「個は全体の中での役割を果たす中での個であり、個が集まって全体をつくり、全体は個を支えているともいえます。・・・いまこそ人は地球生命全体の中での自らの役割を考え、天の理(ことわり)に適う生き方をすべきではないでしょうか」と述べ、優れた科学法則の発見も、もともと自然にあったものを見つけたに過ぎないこと、科学者は謙虚な心で研究すべきと語ります。そして、つつしむ力こそが新型コロナが暗示するメッセージであり、地球の危機状況から人類が読み取るべき重要な教訓であると指摘します。著者は、更にゲノム全てを解き明かしても、生命の本質は明らかにならないとして、魂の存在については、現代科学の範疇を超えた問題として、その存在証明は出来ないものの、がんを自然に治す心の免疫力を実話を通して、信ずる心や信念の力が遺伝子にも影響を与えることを語っています。

 その実話とは、末期の子宮がんに侵されて入院治療を受けていたある主婦の実話です。その主婦は村上氏の書いた『生命の暗号』の中で「人間のDNAのうち、実際に働いているのは全体のわずか5%程度で、まだオフになっている遺伝子が多いこと」を知り、まだ眠っている遺伝子のスイッチを入れることができたら、今より元気になるかもしれないと思ったそうです。そして、「人間は生まれてきただけでも大変な偉業を成し遂げたのであり、生きているだけで奇跡中の奇跡なのだ」という箇所を読み、人間として生まれてきたことが嬉しくて仕方がなくなったというのです。自分が生かされていると実感した彼女は自分を支えてくれている細胞の中にある遺伝子一つ一つに「ありがとう」と言い続けたそうです。最終的にはがん細胞が跡形もなく消えていたそうです。

つつしみと畏敬の念を持って人生を生きる

 今日、コロナパンデミックという未曾有の災害に晒されている人類が、危機の本質を正しい視野で理解し、どのような心構えで対処していくべきかを考える上で、村上氏のような深い洞察力を持った真の科学者と言える人物の最後に残したメッセージは心に迫るものがあります。私達は、どうしても物質的な目に見える範囲の事柄にのみ目を奪われがちです。しかし、目に見える現実の背後にある目には見えなくても、宇宙を支配する普遍的な法則を読み解き、そしてサムシング・グレートと村上氏が表現した宇宙の創造者からの遺伝子という暗号によって人類に示されたメッセージをどのように受け止めていくべきかを今、私達は問われています。

 人の遺伝子暗号は約32億の文字から成り立っているそうです。そして、1グラムの2000億分の1という途方もなく狭い空間に大百科辞典3200冊分の情報を書き込み、人体にある37兆個の細胞の核の中で一刻の休みもなく働かせている存在、それはもちろん人間ではありません。著者は人知を超える精巧を極めた生命の設計図をヒトに書き込み、生かしてる大自然の偉大な存在を畏敬の念をもって「サムシング・グレート」(Something Great:偉大なるなにものか)と表現するようになったといいます。

 宇宙の神秘に思いを寄せるとき、そして生命の神秘に感動を覚える時、私達は人知を超えた存在に対する畏敬の念をいだきます。そして、人が出来ることの限界を感じるとともに、その偉大な存在からの様々な形のメッセージに謙虚に耳を傾け、自らの姿勢を正していかなくてはなりません。科学者として人生を全うされた村上氏が最後に残された人類への遺言に耳を傾けて行きたいと思います。