札幌スピリチュアリスト・ブログ

スピリチュアリストとして日々感じたことや、考えたこと、書籍の紹介などを徒然なるままに記します。

『2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ』を読んで

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エクスポーネンシャル・テクノロジーのコンバージェンス(融合)が未来を変える

 ゴールデンウィークの期間を使い、普段日常生活の中ではなかなかじっくり読むことができない書物を何冊か読むことができました。その中で、ここ3日間で読んだ「2030年 すべてが加速する世界に備えよ」は読みごたえがあると同時にこれからの社会がテクノロジーの進歩によってどのような方向になっていこうとしているのかを改めて考えさせられる本でした。著者のピーター・ディアマンデス氏は、イーロンマスクの盟友であり、MITで分子生物学と航空工学の学位、ハーバード・メディカルスクールで医学の学位を取得した俊英で現在Xプライス財団CEOであり、シリコンバレーにシンギュラリティ大学を創立し、エグゼクティブチェアマンに就任するなど技術の進化がこれからの世界に与えるインパクトを語るのに最もふさわしい人物だといえます。
 著者は、これからの世界を根本的に変えていく技術を「エクスポネンシャル・テクノロジー」と表現し、こうした進化したテクノノロジーと他のテクノロジーが合わさった時に変化が加速するとしています。このテクノロノロジー同士の融合をコンバージェンスと表現しこれから2030年ころまでに、この変化の波はあらゆる産業や生活様式、また人の生き方や価値観にまで及ぶとしています。日本でもこうした変化をDX(デジタルトランスフォーメーション)と表現して官民を挙げて推進しようとしています。もちろんこうした変化を手放しで推奨することには違和感を感じますし、マイナス面も当然考える必要があるでしょう。そして、これまでのライフスタイルそのものを変えて行こうとしているこの変化に着いていけないと考える人が多くいることも事実です。ただ現在私たちは、インターネットのなかった時代のことを想像できない世界に住んでいることを考えると、これから進んでいこうとしている進化するテクノロジーと他のテクノロジーの融合によって起ころうとしている未来を避けることも逃れることもできないとしたら、著者のディアマンデス氏やイーロンマスク氏のような水先案内人の描くビジョンに触れることで、変化する世界の青写真を自らの中に描き、来るべき時代に備えることもこの世界を生きていく上で必要なスキルではないかと感じます。

あらゆる分野に及ぶ波及と変化

 この本の第2部の「すべてが生まれ変わる」の中で著者は、買い物、広告、エンターテインメント、教育、医療、寿命延長、保険・金融・不動産、食料の各分野の未来について現在起こっている変化とこれから10年以内に起こるであろう変化について解説しています。各分野をみていくとこれから10年以内に起こる急激な変化によって、その産業の形態そのものが変わってしまう未来を著者は、一つ一つ予測していきます。これほど広汎な分野に亘って変化の波が押し寄せて来ると、その影響を受けない分野を探すことはほとんど不可能です。その変化や移行のスピードは分野によって異なることは間違いありませんが、人の移動が制限される現在のコロナ禍は、その変化のスピードを加速するであろうことは間違いありません。
 全体を通して、悲観論というよりも楽観論であり、現在シリコンバレーをはじめとしたテック企業のドンの一人である著者の世界観を余すとこなろなく表現しています。AIについては以前マックス・デマゴーグ著の「LIFE3.0」を読んだ際に、汎用人工知能の出現に対する悲観論でも楽観論でもない現実的な対処法として「アシロマAI原則」を打ち出し、ロボット3原則のように脅威を減らしていくための現実的に可能な処方箋を出そうとしたことに対して共感したのですが、この度のディアマンデス氏の著書も、単なる楽観論ではなく現実論として変化をどのように捉えるかという視点で共感を覚える内容もありました。そして、その現実論の中でこの著書で多く出てくる概念が非物質化、非収益化、大衆化です。つまり高度なテクノロジーが安価に多くの人々が手にすることができる未来を示しているのです。
 実際のところ私たちはすでに、生活の多岐に亘ってこうした恩恵を受けています。例えばキャッシュレス化やサブスクリクションモデルの登場と進化によって買い物や移動、また映画やゲームなどのエンタメなど、これまで多くの人手や業者を通して成り立っていた事業が簡素化して無駄が省かれるだけでなく、これまでこうした先進国では当たり前に受けてきたサービスが大多数の後進国と言われてきた国々の人々にも行き渡る途上にあります。例えば金融における劇的な変化として、これまで銀行口座を持つことができなかった人々がマイクロファイナンスの登場で、資金移動や預金、借り入れが可能になりつつあることも、こうしたテクノロジーの恩恵といえるでしょう。ビジネスプロセスが速く、安くなり、仲介役がなくなって、様々な機会が多くの人に開かれるようになりつつあるともいえます。食料の未来に関しても、共感できる箇所がありました。高層ビルで食料を育てようとする垂直農法の発展や、バイオテックとアグリテックの融合によって、生きた動物の代わりに動物から抽出した幹細胞を栄養分豊かな培養液に浸し、それによって肉を作る技術などです。この方法だと動物の犠牲という倫理面での課題解決というだけでなく、人間が使っている土地を有効利用することによって温室効果ガスの削減による地球温暖化への影響の軽減など環境面でも期待が大きい技術です。

5つのリスクに対する解決策と課題解決の処方箋

 この本の中で、注目に値するのは現在地球が直面している待ったなしのリスクにも言及している点です。第3部「加速する未来」の中で脅威と解決策を示しています。5つの脅威(リスク)とは水危機、生物多様性の喪失、異常気象、気候変動、環境汚染に関してです。著者はテクノユートピアを唱えているわけではなく、こうした脅威に対してテクノロジーの面から具体的な解決策を提示しています。再生可能エネルギーの開発や蓄電技術の飛躍的向上、EV開発やAIによるスマートグリッドの管理など課題解決に向けたテクノロジーの利活用促進は多くの示唆に富んでいます。ここでもエクスポーネンシャル・テクノロジーのコンバージェンスがエコロジカルな課題解決に向けて大きな役割を果たしていることが示されています。こうした環境問題への対処というだけでなく、技術的な失業という課題に対しても、新たな雇用創出と再教育コストや時間の短縮によって課題解決は可能だとしています。多くのリスクが迫っていることは間違いないのですが、決して絶望的な状況ではないと著者は様々なデータを駆使して説明します。
 新型コロナウィルスの感染拡大によって、私たちの日常は大きく影響を受けています。見えないウィルスへの実際の脅威と大手マスコミ等によるフェイクニュースの増殖など、これまでこのブログでも、今の社会が抱える矛盾や脅威について述べて来ました。ただ、今起こっている変化は、こうした社会現象の負の側面からだけ見ていても、解決の道を見出すことは出来ません。また変化を恐れてばかりいても、前に進むことは出来ません。もちろん、テクノロジーは使用する側の人間の倫理観(別の言い方をすれば霊性進化のレベル)によって、課題解決の方向へもデストピアに向かう道にも使われることは疑問の余地はありません。そうした正の側面、負の側面を認識しつつ、私たちは、正の側面としてテクノロジーの進歩は、これまで一部の力を持った人々に独占されていた科学技術の恩恵を非物質化、非収益化、大衆化に向かうプロセスを経て、大多数の人々に解放される時代に生きているともいえます。楽観論ではなく、今起こっている事実を正しく見極めることによって正しい選択をすべき時代が今ではないかとこの本を読んで感じました。是非、一読をお勧めします。